Don't stop strip!

 そういったことに疎く、新宿歌舞伎町には寄りつかない生活をしていた私が「ストリップ」という言葉に対して持っていたイメージは、あはん、うふんの世界だった。きれいな踊り子さんたちが服に手を掛け、一枚一枚ゆっくりと脱いでいく世界。それを見ている人々は、肌の露出が増える度に歓声を上げて喜ぶ--。
 「ストリップ学園」と銘打たれた公演のメインビジュアルが出たとき、胸元まできっちりと締まった制服を纏いこちらを見つめる女子高校生役とおぼしき男性の写真を見て、そのイメージはより強固なものになった。舞台を見て嫌悪感を抱いてしまったらどうしよう、と思った。下ネタに全く耐性がないというわけではないが、女性を売り物にするようなストーリーを肯定的に描かれたらしんどくなってしまう。
 ストリップに対する印象が変わったのは、公演前のオールナイトイベントのときのことだ。出演者が「さっきストリップに行ってきた」と熱量高く語っていて、ぎょっとした。私はストリップを風俗だと思っていたから、女性ファンが多いであろう役者さんたちが、客席にたくさんの女性がいる会場でストリップに行ったと口にするとは思わなかったのだ。芸術的だった、アートだと思った、気合いが入った。ストリップを見たという皆さんの口から発せられる言葉は浮ついていなくて、熱があった。なんか思ってたのと違うかもしれない。みんなが言っていた「アートだ」という感覚を私も共有できたら楽しいかもしれない。オールナイト明けの熱に浮かされて、ストリップに行ってみることを決めた。
 
 ストリップを見てからは、ストリップ学園の公演が待ち遠しくて仕方がなくなった。絶対すごいものが見られる。きっとこの期待は裏切られることはない。予めストリップがどんなものなのかを知っておいたから、驚くことは少ないだろう。
 幕が開いて、そんな心構えは無意味だったことを知った。ん?????と思っているうちに、踊り子さんたちが会場の出口に並んで「こちらでーす」と手招きしている。たくさん笑った記憶はあった。印象的なシーンも覚えている。けれど、何がどうつながっているのかがよく分からないままで、なんかすっごいという感覚だけを胸に劇場を出た。手に持っていた紙テープやおチップをどこまで使っていいのかも分からなかった。観劇中に、持ち込みOKと言われていた布物をハンケチのように膝に置いておくのも気恥ずかしかった。「非常識」に置いて行かれたような気がしたのが悔しくて、次はぜったいに振り切ってやると決めた。
 公演日が重なっていき空間に慣れてくると、客席でパンティを振り回して、紙テープを投げて、おチップをねじ込んで、大笑いするのが、信じられないくらい楽しくなった。
 最後のシーン、汗だくになりながらストリップをしてはしゃぐ女の子たちと一緒に、思いっきり、時にはリズムから外れながら手を叩いているうちに、ぐっと体温が上がる気がした。縦横無尽に駆け回って叫ぶ踊り子さんたちからエネルギーが分け与えられるような感覚があって、会場を出るといつも身体がぽかぽかした。汗が滝のように流れる踊り子さんたちの肌が照明に照らされて輝いて、その姿を見る度に生きている人間の美しさを感じた。嫌なこともいろいろある毎日だったけど、「よっしゃやるぞ」と笑い飛ばせてしまうような元気をもらえた。
 新宿歌舞伎町ハダカ座は、どんな言葉も陳腐になるくらいすっごい場所だ。もう一度あそこで、布物をぶん回して現地通貨を扇のように掲げながら、美しくも妖しく力強いストリップにかぶりつける日を楽しみにしていた。

 Don't stop strip!
 また絶対あの場所で、常識を脱ぎ捨てて熱狂したい。その日まで、「ストリップ学園って最高の作品なんだよ」って騒ぎながら、手洗いうがいをして待っていようと思う。